悪質なチケット転売の現状
好きなアイドル、アーティストのイベント・ライブ・コンサート……。
オタクであれば避けては通れない推しイベント。そのイベントにおいて最も気になる、注意するポイントはどこでしょうか。
そう、イベントの当選率。つまりイベントそのものに自分が参加できるかどうかです。
(人気コンテンツを推しているオタクは特に)
昨今巨大市場として注目される声優アイドル(作品ユニット)ライブのチケット競争率が激しいのは、ファンの母数の多さだけではありません。
競争の激しい=需要の高いチケットを狙う転売ヤーの存在です。
チケットプレイガイドに大量のアカウントを持つ転売業者のチケット買い占め、不正転売行為がここ数年で相次いでいます。
拍車をかけているのは、ネットオークションサイトやメルカリなどのフリマアプリサービス、チケットの二次流通専門サービス。そしてSNSの普及だと考えられます。
これらの背景が裏付けるのは、実は「買い手の需要」です。
身近なサービスで転売が行われ、そこにアクセスしやすくなったことは問題ですが、それよりも高額な不正転売チケットでも欲しいと思う人がいて、実際に取引が成立されていることが大きな問題だと考えます。
これらの現状が長年続いていました。
イベントを開催する各興行団体やチケットプレイガイドは、「転売禁止」の文句を常に貼り続けていましたが、実は「不正転売」を取り締まる”法律”というのは存在しませんでした。
しかし平成30年の12月14日、ついにチケットの不正転売を対象とした法律『チケット不正転売禁止法』が公布され、そして令和元年6月14日、ついに施行されました。
このチケット不正転売禁止法はどのような法律・ルールなのか、またこのチケット不正転売禁止法をうけて、転売事情はどのように変わっていくのかを見ていきましょう。
チケット不正転売禁止法の概要
まずはチケット不正転売禁止法がどのような法律なのかを確認しましょう。
この法律が施行されたことを周知し、共有するには正しい情報を知っておく必要があります。
注意点を結論から言うと、全てのチケットに対して転売を禁止する法律ではない、ということです。
では、文化省が公開している法律の内容を確認してみましょう。
(公式全文のPDFファイル。外部リンクで開きます)
特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(条文)
はい、なんのことだかわかりにくいと思います。
これとは別にわかりやすく要点をまとめた「概要」も用意されているので、そちらを見ていきましょう。
特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(概要)
これでもまだ難しいでしょうか?
わかりやすく読み解くために、まずは慣れない言い回しを置き換えてみましょう。
興行主 → イベントを開催・運営する団体
興行入場券 → (イベントに参加するための)チケット
特定興行入場券 → ある条件を満たした、当法律を適応するチケット
これならどうでしょうか?
かなりわかりやすくなったと思います。
目的
では、さっそく概要PDFの目的から確認してみましょう。
特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置等を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することを目的とする。
※「興行」・・映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせること(国内の興行に限る。)
こちらは目的なので、難しいことは書いていません。
要約すると、
チケット不正転売禁止法はチケットの不正転売を禁止し、防止する措置を定めます。
それによりチケットの適正な流通を確保することで、イベントの各文化やスポーツを盛り上げます。
これらが国民の生活の安定に繋がます。
要は、この法律は国民の皆様のためですよ、ということです。
特定興行入場券の不正転売等の禁止
さて、ここからが本題となります。
不正転売の禁止
何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない不正転売目的の譲受けの禁止
何人も、特定興行入場券の不正転売を目的として特定興行入場券を譲り受けてはならない
ここで注目すべきポイントは2つ目の「不正転売目的の譲受けの禁止」です。
そう、この法律ではチケットを不正に転売、つまり売りに出す行為だけでなく、不正に転売されたそれらのチケットを譲り受ける(購入)することも禁止されています。
転売反対の人たちは前から「転売チケットを買う方も悪い」「買わなければ転売は防げる」と訴えていました。
しかし、やはり転売市場がここまで大きくなっている通り、転売チケットにもそれなりの需要があったのです(喜んで買う人がいた)。
転売を撲滅するためには、買う人の意識も変え、規制しなくてはなりません。
購入者にも適応されるというのは、そのために必ず必要な一文と言えるでしょう。
続いては先程簡略化した文言の確認です。
• 興行主等
興行主又は興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者
先述したように、イベントを主催する運営と考えて良いでしょう。
さて、次が問題のポイントです。
最初に言ったとおり、この法律はチケットの転売を禁止するものではありません。
正確には、特定興行入場券の不正転売を禁止する法律なのです。
では、どのようなチケットを「特定興行入場券」というのでしょうか。
• 特定興行入場券 ※QRコードやICカードを入場券とする場合を含む。
興行入場券(それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票)であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、
①興行主等が、販売時に、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示し
②興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定され
③興行主等が、販売時に、入場資格者又は購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じ、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示しているもの
概要にはこのようにあります。
一つずつ確認してみましょう。
まず特定興行入場券とは、それを物理的なチケット(券)に限定せず、QRコードやICカードなどのチケット権利にも適応されます。
そして前提として不特定多数に対して販売されているもの。
これらを踏まえた上、大きな条件が3つあります。
- イベント主催団体が、チケット販売時に、イベント主催団体に同意のない転売行為を禁止する旨を明示し、同じくその旨をチケットに表示してあること
- 販売チケットに、イベントが行われる日時及び場所、並びに入場資格者又は座席が指定されてあること
- イベント主催団体が、チケット販売時に、入場資格者又はチケット購入者の氏名及び連絡先を確認し、同じくその旨をチケットに表示してあること
これら全ての条件を満たすチケットを「特定興行入場券」とし、この法律を適応します、ということです。
最初に言った「全てのチケットの転売を禁止する法律ではない」ということがおわかりいただけたでしょうか。
では最後の項目である「不正転売」についても正しく理解しなくてはなりません。
もう一度言いましょう。
この法律で禁止するのは、特定興行入場券の不正転売です。
では一体何を持って「不正転売」とするのでしょうか。
• 特定興行入場券の不正転売
興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの
注目すべきはここです。
>>「 業として行う 」
聞き慣れない言い回しではないでしょうか。
実際私もこの条文で初めて目にした言葉です。
ネットで調べてみると、どうやらこの法文には定義がないらしく、複数の解釈があり、法令によって使い分けられているそうです。
(「業として」という言葉自体は他の法律でも使われる)
基本的な解釈としては、反復継続性と事業的規模が基準となるようです。
反復継続性、つまり複数回繰り返した行為、もしくは複数回行う意思が認められるか。
またそれを事業的(非常に曖昧ですが)な規模で行われているか。
これらが判断材料となり、条例によってケースバイケースで裁断されるようです。
この一文をとって、
「高額転売で稼いだけど個人だし1回だけならセーフ!」
ということがまかり通るのではないか?と、SNS上などで言われていました。
元の表現が多少曖昧である以上、確かにそうかもしれないという不安は拭いきれない、というのが正直なところだと思います。
罰則
違反者は1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又は併科
※国民の国外犯も処罰
これはシンプルでいいですね。もちろん、条文にありますから、チケットを譲り受けた人も対象となります。
チケット転売事情の今後
さて、全体を通して今回の法律内容を詳しくみてみました。
コレで本当に大丈夫だろうか、と少し不安になられた方もいるのではないでしょうか?
転売ヤーがすり抜けられる穴があるのではないか、と思う方がいるかも知れません。
実際、この法律が施行されてから、この法律が適応されて検挙された事件は1つもありません。
(施行が6月なのでまだ期間は短いですが)
では、今回の法律が施行されてもチケット転売は減らず、何の解決にもならないのでしょうか。
いえ、私はそうは思いません。
今回の法律施行により、チケット転売事情は、少しずつですが、確実に良くなるだろうと私は確信しています。
その意見を踏まえ、では実際チケット転売事情はどう変わったのか?というのを次の記事で紹介したいと思います。
この記事で新法「チケット不正転売禁止法」について、より理解が深まったのであれば幸いです。